本棚とフィリピンの海

本を整理したい。

置いておく本は、本棚に収まる程度の量に収めたいと思ってはいるものの、少しでも思い入れがある本だと、そう易々と手放す気にもなれず。それでも以前は、ある程度まとめて処分をしていましたが、最近はなかなか手をつけられず、結果、本は増えるばかり。応急処置として、100円ショップで買ってきた文庫本のケースへと避難させ続けているものの、そのケースも積み重なってきたので、そろそろ限界かもしれません。
本棚には結構奥行きがあり、文庫を縦に3列まで並べることが可能です。試しに冊数を数えてみたら、横1列に30冊。それが1つの棚に3列あるので、1段で90冊。その棚が全部で6段あるので、合計540冊。避難している本を含めて、全部で600冊強というところ。火をつけたら、さぞかしよく燃えるでしょう。数々の思い出と共に。


ところでこの本棚、家では確かに本棚として酷使されてはいますが、本来は本を収納するものではなく、食器棚として使われるべきもの。でも家にはそれほど食器は多くなく、すでに食器棚は足りていたので、食器棚は否応なしに本棚となりました。なぜ食器棚が余計にあるかというと、譲ってもらったモノだから。
この本棚(食器棚)を譲ってくれた知人は、僕よりかなり年上で、設計士として立派に仕事をしていましたが、ある時から、突然フィリピン女性に熱をあげ、挙句「フィリピンで暮らすことになったから」と、家具一式を知人たちに譲ることにしました。僕が譲り受けたのは、食器棚とモーリスのアコースティックギターでした。こうして意気揚々とフィリピンに旅立った知人は、向こうで全財産を騙し取られ、ほとんど無一文の状態で帰国。財産への執念か、女性への復讐心か、それとも底知れぬ愛情なのか、そこらへんは定かではありませんが、日本で金策を整えると、再度フィリピンへ。以降現在に至るまで、音信不通の行方不明。もちろん元気でいれば良いとは思うものの、僕は何となく、彼がフィリピンのどこかの海に沈んでいるような気がしてなりません。
だから残された食器棚とギターは、僕にとっては彼の遺品となりました。


親しかった人たちから、勝手に哀れまれたり、馬鹿にされたりという別れ方となりましたが、僕としては、そんな人生の幕引きも、まぁありっちゃありなんじゃない?と思っています。彼が設計したモノは、この世にキチンと残されています。そういや食器棚もギターも、ほぼ木製だから、海では浮くんだろうな。