050228 カネヤン・ア・ゴーゴーscene1

briki2005-03-28


  登場人物
 ジョー(かねやんさん)クローディア(かねやんさんの奥さん)ロミオ(ヤツ君)
 チャーリィ(茶吉さん)添加物(ガス電池)



オレ達は、荒野をただ南西に進み続け、日が暮れてからようやくジョーの新しい店『カネヤン・ア・ゴーゴー』に到着した。
「ここだ」昔からこのポイントを知っていたチャーリィが、煙草の煙を吐き出しながらそうつぶやいた。
言葉少ないチャーリィだが、まるで自分の女のように大事にしているビリヤードのマイキューをわざわざ肩に下げて来たことから察するに、過去に何かあったに違いない。
いまこうして店を見上げる目も・・・おっと余計な詮索は野暮ってもんだ。
「こっちだ、添加物」「へい!」オレは両手に抱えたバーボンに気を払いながらあとについて行った。
新しい店は、前の店がスポっと2つ丸ごと入ってしまうほどデカかった。ジョーのヤツ、大したもんだ。


そこには未完成の空間ならではの、部外者が踏み込んではいけないような雰囲気と、ひんやりとした空気が漂っていた。
店の床一面には、バラバラの状態の陳列棚の部品が転がり、ハゲタカに喰い尽くされたあとの水牛の骨を連想させた。
まるで死んでもなお自分のテリトリーを主張するかのように広範囲に散乱し、組み立てられて陳列されるのを待っている。陳列棚なのに。
その中心に、途方に暮れているかのようにじっと佇む男がいる。ジョーだ。
ユーズド・ザ・ジョー。仲間内ではそう呼ばれている。意味は知らねぇが、逆に呼びにくいことは確かだ。「ユーズドジャジョー」とか言ってしまう。まったく面倒なこった。
「来たか・・・待ってたぜ」その声にはいささか疲れを感じさせたが、ジョーは笑顔で応えた。
オレとチャーリィはカウボーイハットをとり、握手を求めた。しかしそれはジョーに無視された。なんでだろう。きっとあの男も疲れていたんだろう。
せっかく出した手がもったいないので、チャーリィとオレで握手した。やあやあどうもどうも。
「よく来たね。長旅ご苦労様」奥の方からそう言って穏やかな微笑みを見せたのは、まだ幼いロミオを抱きかかえたクローディアだった。
「よぉクローディア。旦那は相当疲れてるようだが、ちゃんと手伝ったのかい?」チャーリィが軽い口調で言った。その途端にクローディアの目つきが変わる。
「むしろアタシの方が疲れてんだ。コイツで踊らせてやろうか?」ロミオを抱えているのとは逆の右手には、ウインチェスターのM66があった。
「す、すんませんでした・・・」チャーリィは素直に謝った。ほぼ90度に頭を下げた。いや120度はいってたかもしれねぇな。へへ。
「おや、来たのかい添加物」クローディアがオレを見つけてライフルを向けた。おいおい、銃の扱い方がなっちゃいねぇぜ、まったく。
「へ、へ、へ、へへい!」オレは返事をしながら、危うくバーボンを落としそうになった。何故だかは分からねぇ。きっと武者震いのせいだ。


チャーリィが抱えていたキューをカウンターに置いた。
「ん、なんだ?手土産・・・ってわけじゃなさそうだな」ジョーがカウンターの向こうに回り込みながらじっと見つめる。そしてキューを手にとった。
ジョーは少し目を見張ったように見えた。「まさかおめぇ、コイツはあの時の・・・マ」即座にチャーリィが答える。
「ああ、そうだ・・・そこの傷、まだ覚えてるか?」まるで子供達が、自分達にしか通じない暗号で遊ぶかのように、悪戯っぽく言った。マ?マってなんだ?
見るとキューの先から5センチくらいの所に傷があった。かなり古い傷だと見えて、最初からそこについていたかのような自然ささえ感じられた。
「もちろんだ。もちろん、覚えているとも・・・マ」ジョーが昔を懐かしむような優しい口調でそこまで言うと、またもやチャーリィが即座にこう答えた。
「俺達も、あの頃はまだ若かったからな・・・」だからマってなんだよ。
オレは何の傷だか気になって仕方なかったし、せめて「マ」が何の「マ」なのかだけでも聞きたがったが、黙っておくことにした。
昔の思い出に浸る男達の邪魔をするほど、オレは野暮じゃな「マってなんだよマイダディ」ロミオだった。



  to be continued...