耳聞こえない09

イヤホンの左側だけ低音が聞こえなくなっていたのは、イヤホンの故障ではなく、単なる前兆に過ぎなかった。何の前兆かというと、耳が故障する前兆。
自覚症状はなかったものの、すでに体内では僕の味方と僕の敵との激しい攻防があったらしい。つまり風邪のせいで喉が腫れて耳の中が圧迫されたことにより、低音が聞こえなくなっていた様子。それが木曜日の朝のこと。でもその後、僕の味方が優勢となり、聴覚は一旦正常な状態に戻る。しかし、どうやら寝ている間に僕の敵が本領を発揮したらしく、味方惨敗の金曜日には、起きたら左耳がほとんど聞こえない状態になっていた。さすがにこうなると、イヤホンのせいには出来ない。だってイヤホンをつけてもいないのに。

そんなわけで盛大に雨が降り、川の水かさも増す中、トボトボ耳鼻科へ行く。


女医さんに、耳のみならず喉や鼻にも器具を突っ込まれながら、「こんなに喉が腫れいてる時に、さらにヘッドホンで耳を圧迫するなんてバカじゃないの?音楽を仕事にしているのに、そんなことも知らなかったの?バカ?ねぇあなたバカ?」と怒られる。マゾ気質の人にはうってつけなアトラクションかもしれないが、僕はそうでもないようで、あまり楽しめず。
思えば木曜日に、遠くの音が異様に近くで聞こえるような気がしていたのは、突然左側だけ可聴領域が変化したせいで、周囲の音の距離感を、脳が正確に把握できなかったせいかもしれない。でも本人は「何らかのパワーに目覚た今日はオレのセカンドバースデー」程度にしか考えていなかった。ホントにバカ。
これまでの人生でイヤホンは何度も壊れているけど、自分の耳が壊れたことは初めてだったので、先入観だけでイヤホンの脆弱さを疑ってしまった。そんな自分を恥じて、今日はイヤホンと一緒にブランデーを呑む。