悠々試し書き講座

では本日の『悠々試し書き講座』を始めます。

こちら画面では少々見難いかと思いますので、以下に全文をご紹介します。

松田○○○様

こんにちは。
この前さんすう150点ちゅう
30点だったそうですね。
さようなら
 さようなら

はい、なかなか思い切りの良い字でお書きになっていますね。しかし、きちんとメモ用紙の下線に合わせて書かれてあります。時折、こういった試し書きの形式を無視して書かれたものも見かけるのですが、大抵は読みにくく、文章にすらなっていないものも多いのです。試し書きだから自分が読めれば良い、などという考えで試し書きするのも考え物です。
さて、まず最初の一行ですが、実名かどうかは分かりませんが、お名前が書かれています。こちらは念のため、視聴者の皆様にはモザイクをかけております。ご了承下さい。そしてこのお名前には『様』という敬称を用いられています。この試し書きを書いた方と、この松田さんの御関係は分かりませんが、目上の方へ送る試し書きとしては上出来でしょう。
次の『こんにちは。』というのは、いささか砕けた表現になりますが、試し書きにおけるコミュニケーションでは、あまり堅苦しい書き出しになるよりも、これくらいの親密さがあった方が良いでしょう。
しかしそこから続く文面は、いささか礼を書いた物と言わざるを得ないでしょう。おそらく『150点ちゅう30点』というのは、算数のテストの結果を指しているのだと思われますが、誰に見られるか分からない試し書きにおいて、こうしたプライバシーを明かしてしまうのは良いこととは言えません。確かに、そのテストの平均点が「150点中2点」だったとしら、この松田さんの30点という成績は優秀な部類に入るわけですが、一般的に「150点中30点」と聞けば、まず間違いなく不出来と想像するでしょう。ご覧になった方に「松田さん=不出来」という図式が出来上がってしまうわけです。事実、私もそう思ってしまいました。松田さんはバカです。
ここで「算数」という部分に漢字を用いず、平仮名で書いていることから、この試し書きを書いた方の年齢は、私が冒頭部分だけを読んで想像したよりも、低いのかもしれません。しかしまだ幼いからと言って、こうしたことを試し書きで暴露してしまうのは許されないことです。ご覧になっている皆様も、十分に注意して下さい。
続く締めの部分では、『さようなら』が2回繰り返されています。つい先程、「これを書いた人は、思っていたより年齢が低いのではないか」ということを述べました。私は小学生程度ではないかと予想したのですが、もしその年齢で「さようなら」を2回繰り返して締めるという高度な試し書きテクニックを、知らずに用いているとしたら、この方には相当な試し書きの才能が備わっていると見て間違いないでしょう。しかも少し位置をずらして、計算した配置で書いているということから考えても、すでに試し書き有段者程度の実力があると見て間違いありません。
もし、この『さようなら』が1度だけですと、松田さんに対して本当に「さようなら」、つまり「そんなにおバカなあなたとは、友達関係もこれっきりね」という通告と受け取れますし、成績不振で落ち込む松田さんに、更に追い討ちをかけるような冷たい仕打ちとなってしまうでしょう。しかし、この『さようなら』を2回繰り返すことによって、上に書いた試し書きは、ほんの冗談なのですよ、といったニュアンスを与えることに成功しています。また、ここまで付け加えられていた「。」が、『さようなら』の部分では使用されていないことから考えても、そのような意図があると見て間違いないでしょう。
これを書いた方は、大変なユーモアセンスをお持ちになっているようですね。


今回はこんなところでしょうか。松田さんに対する非礼な部分はあったものの、試し書きとしてはなかなか高度なテクニックが含まれており、目を見張るものがあったのではないでしょうか。
皆様も、見た人が不快にならず、楽しい気分になるような試し書きをするようにして心掛けて下さい。


さて、2週間に渡ってお送りしてきました『悠々試し書き講座』ですが、今回が最終回となりました。またいつか、皆さんとお会いする日を楽しみにしております。
それでは、ごきげんよう


さようなら
 さようなら